雑記

__blurry_のおぼえがき

2023年上半期歌い手オリジナル曲ハイライト

はじめに

 昨日歌ってみたのリストについて軽い付記を作ったのだが、「歌ってみた」という性質上、歌い手のオリジナル曲の紹介が漏れていたことにふと気がついた。なのでこちらについても軽く紹介する。

2023年上半期歌い手オリジナル曲ハイライト

沙花叉クロヱ - パラライズ

 歌が上手く、かつ日頃の賑やかでコミカルな喋りと耽美的な歌唱の温度差がよく知られている沙花叉クロヱさんのオリジナル曲。作曲者はてにをはさん。
 言ってしまえばAdoの「ギラギラ」と同じような曲であるが、この人がキャラクターコンセプトとして押し出している多面性を存分に活かしたような、シームレスに声音が移り変わっていく様がとても面白い。「ギラギラ」は声質が一定のままがなったりファルセットで歌い上げたりと、要所要所でビビッドな表現を置いていくのが特徴的だが、「パラライズ」は楽曲を通して声質が安定せず、常に流動しているような印象を受ける。そういう意味ではむしろロボ子さんの「リルビ」に似ているとも言える。

存流 - しれね

 ファーストアルバム『ARU』の8曲目。Guianoが作曲したIDM寄りのドラムンベースとひとまずは言えるが、1つ目のバースが終わった瞬間にBlawanが出てきたかのように波打ち歪んだ音色が現れ、ハイハットの音色も一気に汚れ荒んだ音になる。何事かと思った。ありがたいことにOTOTOYで買える。

るる - Prima Littera

 最近の中堅歌い手の中で一番伸びやかかつ力強い歌を歌う人の初めてのオリジナル曲。楽曲構成や使っている音色におかしなところはないし、ストリングスをフィーチャーした2000年代的アニソンに近いと言えそうなのだが、楽曲を聴いていても次に来るコードがぜんぜん予想できない。同じくコード感が独特な人と言えばいよわがいて、あの人はジャズやクラシック出身と分かるが、この曲からはそういう感じもしない。強いて言えばMPBやボサノバなどのブラジル系の音楽、あるいは田中秀和辺りだろうか。しかし複雑なコードを読み解いて何回か聴いているととてもいい曲だなと思う。早く配信して買わせてほしい。

biz×ZERA feat LOLUET - Loveit?

 Tiktokでバズって380万回再生された曲を「歌い手オリジナル曲」と言うのもなんとなく憚られるが、LOLUETさんは神椿所属かつ個人チャンネルで歌ってみたを上げている人間なので定義上は何の間違いもない。
 いかにもボカロ曲的なゴシックな世界観とメロディにトラップのビート・フロウが融合した、いかにもポストボカロ(そんな言葉があるかは知らないが……)時代のヒット曲という感じがする。こういうものをGacha Popと呼ぶのかもしれない。
 LOLUETさんのねっとりとして得体の知れない、サウスヒップホップの狂気をポップに転化したような歌唱が楽曲の切れ味を何倍にも高めている。この曲については良かった歌みたを以下のリストにまとめているので聴き比べてみるといいかもしれない。月並みだが藍月なくるさんが圧倒的に良い。

わかばやし×深水さや - THEATER

 ニコニコを中心に活動する歌い手わかばやしと、去年の暮れに突如として現れ、初投稿(しかもいよわ『熱異常』!)からそのクオリティとインパクトのある動画で35万再生を叩き出した注目の歌い手深水さやによるオリジナル曲。わかばやしさんの明るく弾むようなスキルフルな歌唱と、深水さやさんの透き通った中性的な声が対照的ながらも互いを引き立て合っていて面白い。曲としてそんなに新鮮ということはないが、歌い手二人の歌唱の魅力を余すところなく引き出しているという点で「歌い手のオリジナル曲」としては満点。
 以下は深水さやさんの初投稿動画。全てのクオリティがおかしい。

終末うにこ - びしょぬれのこころ

 10代的な歌唱でありつつもやや掠れたような声質が特徴的な終末うにこと、『身体は正直だって言ってんの』『先生のこと好きになっちゃう』など、良識的な大人が全員眉をひそめるヒット曲をいくつも生み出す式浦躁吾の共作。Soundcloud以降のカットアップを多用したエモーショナルかつアンニュイなサウンドと、いかにも情緒不安定かつ虚弱そうな歌唱がよくマッチしている。全体的に悪口に読める文章になってしまったが、私はこういうものがけっこう好き。式浦の曲では『先生のこと好きになっちゃう』が特に好きで、音源も買ってちょくちょく聴いている。

Kusuri Maibyou - 夢鬱 - ゆめうつつ

 歌ってみただけでなく作詞・作曲・動画作成まで手がけるバーチャルクリエイター苺病くすり(今はKusuri Maibyou名義?)のオリジナル曲。『ハウルの動く城』や『魔女の宅急便』の劇伴のような、異国情緒の溢れる耽美的な三拍子の楽曲で、主題はいくつかありつつも曲想がプログレッシブに展開してリスナーをその世界観に呑み込みにかかってくる。歯切れのいいリズムに絡み着くような淀んだ歌唱と、要所で見せる細かく波打つビブラートを聴いていると、"少女性"というものの中に在る底知れないものを覗き込んでいるような気分になる。衝撃的な一曲。
 この人は『Who?』の歌ってみたが良い。動画のダンスは愛らしくも、こちらに対してその愛らしさを目配せしてくるようなところがなく、ただ孤高に踊っているようなのが好き。

おわりに

 歌い手シーンから出てくるものはいわゆるJ-POP的なものとは違うディテールが詰まっていて、そういう鑑賞をさせてくれる曲はありがたいなと思った。下半期も期待したい。