雑記

__blurry_のおぼえがき

10/2

できたこと

  • 料理
  • 洗濯

雑感

邦ロックベストソング50

 やってみた(さっきちょっと順番を入れ替えた)。自分以外が"邦ロック"と呼んでいるものを全く通ってきていないので早々に個人史上最高の日本語ロック50選という方向に切り替えたのだが、結果としてはほとんどがインターネットカルチャー発の楽曲になったし、"邦ロック"らしい音もほとんどランクインしなかった。私はギターが鳴ってるポップソングを大まかにロックと認識しているきらいがある。
 個人的に入れられて良かったと思うのはハチ『遊園市街』。米津玄師が初めてオリジナル曲で肉声を披露した一曲であり、収録作『OFFICIAL ORANGE』のクロスフェードの動画でこれが流れた瞬間の感動とコメント欄の盛り上がりは今でも思い出せる。今聴き直しても、細く不安定に揺れる歌声とイノセントなサウンドは色褪せないし、空間系のギターの音色と、過剰さすら感じるバンドアンサンブルはシューゲイザーの変種として新鮮な面白さすら感じる。
 ボカロ由来だとRaison d'Etre『自滅回路』も。元々クワガタPの歌ってみた動画で知った曲で、ああ良い曲だなという程度だったのだが、繰り返し聴いて原曲も聴いて、気がついたらもう10年近く聴き続けている曲になった。今聴いても新鮮に心を震わされるシューゲイザーの名曲。余談だがMV中でボーカルが変なベンチに座っている空間は札幌駅北口の地下通路。実は札幌のバンドだと知ったのは大学生になってからのことだった。

www.nicovideo.jp

www.nicovideo.jp

 それからナスキーコシュカ『With Me』。大学の軽音部でライブがあり、観に行ったところ一発で心を掴まれてしまった。音源が出なかったし、今サンクラに上がっている音源もデモ程度の作りなので私の感動がいかほどのものだったかは誰にも伝わらないだろうが、私の中でロックに心を揺さぶられた瞬間を挙げる時、あの日のライブを外すことはできないと思って選曲した。

 追記:元のランキングにゆらゆら帝国『無い!!』やキリンジ『エイリアンズ』、サカナクション新宝島』が入っているのを見て、それありなんだ……と思った。それが邦ロックだというのなら全然構わないが、それが好きな人に他の好きな曲を聴いたら海外のバンドが返ってきそうだと思った。私もそれを見て堀込泰行ソロ版のエイリアンズを入れたのだが……。これはPrecious HallでBOSS(TBH)が午前三時過ぎごろにかけていて知った。というかそれまでエイリアンズという曲の存在すらも知らず、フロアで浴びたのが初体験となったのだが、あまりの良さに頭がおかしくなりそうになった。今でも聴くのはこっちのダブ版の方が多い。

聴いたもの

米津 玄師 AI - 可愛くてごめん (ハニーワークス カバー)

 文字列が全部面白い。タイトルが全てなのだが、米津玄師がウキウキでこんな曲を歌っているという状況の面白さとは別に、この人のどこか幼さが残りつつも成熟した歌唱がスカパンクサウンドと妙にマッチして聴き心地がかなり良い。今日はこれをずっと聴いていた。

藤井風 AI - ラグトレイン (cover)

 藤井風AIのラグトレイン。色気のある低音が存分に発揮され、歌愛ユキの原曲とは異なる味わいを生んでいる。

ACIDMAN - 創

 ぎりぎり名前を聞いたことあるくらいのバンドのファースト。海外にない音楽性の邦ロックの名曲として『赤橙』を教えてもらったのでアルバム全体で聴いてみた。
 紛れもなくロックバンドのアンサンブルでありながら、名前のいかつさとは対照的にとても柔らかいサウンドとボーカルが新鮮で良かった。バンドサウンドの雰囲気からするとソウルやファンクの下地がありつつ、バンド音楽を何かやろうとしたらこうなったのだろうという感じ。
 やはりハイライトは『赤橙』だが、このノスタルジックで寂しい余韻を吹き飛ばすような『バックグラウンド』もかっこいいし、後半も『香路』や『揺れる球体』など隙がない。とても良いアルバムだと思った。

9/30(最近聴いてる曲)

できたこと

  • 勉強

雑感

試験勉強

 今日は一日中ファミレスにこもって勉強していた。明日が試験であるため。高校生に戻った気分だが、社会人なので好きに昼食おやつ夕食まで食べても懐は痛まない。社会人最高。

最近の気分

 最近聴いた音楽、という記事を見かけていいなと思ったので自分もやる。ダンスとボカロとインターネットとポップ、おおむねそういう感じ。

なるみや - 可愛いあの子が気にゐらない

 百合ポップ。和風のメロディ・アレンジの裏でドラムンベースの性急なビートがタイトに刻まれているのが良い。
 なるみやさんは『醜形恐怖症』が1000万回再生を記録しているシンガーソングライター。声がかわいい。

稲葉曇 - リレイアウター

 2023年上半期にはいよわ『一千光年』があり、下半期には『リレイアウター』がある。そういうボーカロイドへの強い信仰と愛が結実した名曲。四つ打ちのビートながらタンゴに近い独特のグルーヴがあり、踊っていると身体が異様なくねり方をする。

Puma Blue - Hounds

 現代トリップホップ/アンビエントR&Bで一番精度の高い音を作るシンガーPuma Blueの新譜からのシングルカット。ダビーで陰気なビートはトリップホップそのもの。途中から登場するクリーントーンのギターは何回聴いてもたまらない。

La Romi pa' tu consu - MikuPerreo

 ひと昔前という感じのコテコテのレゲトンサウンドなのだが、肉体的なビートの上にプリセットそのままらしい初音ミクの冷たいボーカルが乗ることで、サウンドの中に強烈なコントラストが生じ、他にはない神秘性を獲得している。that same streetとかkinoue64とか最近になってボーカロイドの声質の神秘性を強調するようなサウンドは増えてきた感じがある(後者は164 "memory"以降の感性もあるにせよ)。

Conclave - Perdon(Louie Vega Remix)

 NYハウスの巨匠Louie Vegaによるリミックスで、フュージョンテイストの強い原曲がコズミックなラテンハウスに生まれ変わり、フロアでの破壊力が格段に上がっている。

sekai - どんなふうに生きてみたい

 sekaiさんのオリジナル曲。切羽詰まったような歌声が笹川真生の2010年代を思い出させるような荒々しいオルタナサウンドと噛み合っていてかっこいい。この曲はドラムの音作りがいいなと思った。

wowaka - アンハッピーリフレイン

 2010年代最強のVOCAROCK(死語)。ボーカロイド楽曲に限らなくてもこれよりかっこいい曲を見つけてくる方が難易度が高いのではないかと思う。ドラムだけ強烈なリバーブがかかった音作りがホワイトキューブ的な空間の広がりを感じさせ、バンドアンサンブルの響きを独特なものにしている。楽曲の性急さと過剰なエモーションはハイパーポップ以後の今だからこそ面白く感じる。

SOPHIE - Immaterial

 この前急にSOPHIEが気になり始めて買った中にあった曲。強烈な祝祭性、特異な音作り、くねるようなボーカリゼーション、ポップパンクのような楽曲構成、全てがハイパーポップの先を行っている凄まじい曲。

9/28

 このところ抱えていた作業が終わり、なんとなく熱っぽかったので午後休を取って昼日記とした。

できたこと

  • 料理

雑感

東京最低最悪最高

 なんかずっと引っかかっていたのに書くのを忘れていた。
 いろいろと嫌な部分の多い漫画なのだが、一番嫌なのは作中のナラティブが全て典型的であることだった。ネットを見てれば嫌でも目に入ってくるような言説をまとめたような、言ってみれば空気に乗っかっただけの話でしかない。この主人公がそういうナラティブしか持っていないという主張は当然可能であるけれど、だからなんだという話で……。現状肯定になずんでいくような創作物を読んでも仕方ないと思った。

語彙力

 二つのツイートを見かけた。

 そこまで言うことはないだろうという気持ちと、言わんとしていることへの共感が両方あった。私も文末に(?)とかよくつけているし……。
 私も(語彙力)と文末に付けるのはあまり好きではない。そこで諦めないでもう少し言語化を頑張ろうよと思う。Twitterに投稿する感想なんて鮮度の高いものばかりで、初見~精々が数日で数回鑑賞した程度の感想なんて、後から振り返れば間違っている可能性の方が高い。それでもその時何かを言いたいのなら、全力で間違えた方がいいし、他人の感想だってそこまで当てにしない方がいい。結局のところ個人的評価や感想なんて1か月以上経ってみないと定まらないものだし。

そうですか感

 そうですか……と思った。どちらの曲も(後者は一部しか聴けていないが)、大物ミュージシャンをfeat.しているとはいえ、ただそうしているだけで別にケミストリーを感じるわけでもない。個人的に国内シーンのバンドにはこの三人の音楽性の先にあるようなものは期待していないし、むしろ面白さが薄まるような……。海外の大物ミュージシャンの起用に喜ぶのは西洋コンプレックスみたいだし、小林幸子がボカロの歌ってみたを出すのとどう違うのかという気持ちもあって、盛り上がっているのは分かっていてもあまり乗っていけなかった。やるならやるでアルバムかEP一枚かけて全力でやってほしい。

AIカバー

 AIカバーが面白くてこのところしばらく漁っていた。ここで言うAIカバーとはアニメキャラや配信者の声をAIに学習させて既存曲をカバーする動画群のことで、例えば藤原千花(かぐや様)のエミネムカバーとか岩倉玲音のDuvetとかがある。

 こういうクオリティが高い音源も面白いのだが、雑な作りのやつが意外と面白いということもある。星街すいせいさんAIのDittoカバーは明らかに作りがいい加減なのだが、長く伸ばす音にえぐいグリッチが入っていて、オートチューンのようなボーカルの変調の一種として面白い。

 AIカバーは二次創作の一種なので、当然元キャラクターの知名度の高さと創作物の多さは比例する。そういうわけでインターネットで一番数が多いであろう(加えて私の推しでもある)Gawr Guraさん(以下サメ)のAIカバーを掘っていた。とてもスムースながら記名性の高い声なので何を歌ってもよく似合う。NewJeansとかJamiroquaiとか。特に後者は本人のお茶目さや2000年代以前の音楽への適性もあってかなり合っていた。

 AIカバーの魅力は何かといえば好きな声に好きな曲を歌わせられることである。もう一歩踏み込んで言えば、任意のボーカリゼーションをその声で聴くことができる。そういう欲望を叶えた結果どうなるかというと、このとてもかわいい配信者にKORNを歌わせ、大事な声帯を潰すようなグロウルをさせることができる。

 サメにメタルを歌わせてグロウルさせる動画はMalec Payneというメタルの演奏動画投稿者が一手に担っており、それなりの数がある。SlipknotとかSOADとか。

 このあたりの動画は既存の"男性的な"メタルを、形はそのままにハックして異様なものに変えてしまっており、萌え声メタルの可能性を大きく開いていてかなり面白かった。このままグラインドコアとか歌わせてほしい。

 このAI歌唱が何かに繋がっていくのかというとかなり疑わしい。普通に何らかの権利を侵害していることは明らかだし、歌わせられるということは本人の同意なくどんな言葉でも喋らせられるということでもあって、いつか大きな災いを呼び込むだろうとしか思えない。サメでも2日もあれば全部見切れる程度の量しかないというシーンの小ささ、ここに関心を持つ人間の少なさから治安が保たれているわけなので、これからも好事家の趣味として細々と続いてくれればいいと思う。

聴いたもの

Various Artists - 1970's Algerian Proto-Rai Underground

 このところSublime Frequenciesのリリースを聴くのがとても楽しく、面白そうなものを片っ端から聴いている。これはアルジェリアで発した音楽ジャンル「ライ」の世界的ブレイク前夜の楽曲群をコンパイルした作品。トランペットの荒々しいフレージングとシンコペーションの効いた打楽器がなんとも味わい深い。声を張り上げ、たなびくように音を伸ばすボーカリゼーションは中東に由来するものだろうか。

結束バンド - あのバンド (Galbae Cider NY House Mix)

 Galbae Ciderは90~年代初頭風のサウンドが特徴的なアニソンブート作家。完璧なNYハウスサウンドの上に早回しによって痙攣したような喜多郁代のボーカルが乗ることで、クラブとアニメが融合した"アニソンブート"の味わいが生まれている。

桃寝ちのい - Kissin' 燃料で治癒したい

 希死念慮の天使こと桃寝ちのいさんのオリジナル曲。作曲はOMOIDE LABELからのリリースがあるでんの子P。
 イントロ一発目から分かる通り萌え声ジュークで、ジュークらしいつんのめった性急なビートやカオティックな音使いとちのいさんの甘い声が調和していて凄まじいなと思った。この声で畳みかけるように次々に韻を踏んでいくのも凄みがあってかっこいい。

La Romi pa' tu consu - MikuPerreo

 初音ミクレゲトン。オカダダさんが昔かけていたのをふと思い出して聴いてみたらめちゃめちゃかっこよかった。タイトルにある「Perreo」はレゲトンサウンドレゲトンと呼ばれる前の呼び名。今でも「ネオペレオ」という言葉はうっすらと残っている。Movete, es el MikuPerreo!

9/17

できたこと

  • 洗濯
  • 皿洗い
  • 炊飯器のセット

雑感

今日

 朝起きて全ての洗い物を片付けて洗濯をした。人間性が回復していくのを感じた。
 昨日は友達に誘われてコンカフェに行った。18歳19歳の人間(一部は高校生)が終電も過ぎた時間に成人に酒を提供しながら会話する仕事に従事しているというのはものすごいことだと思ったが、考えてみれば18歳は成人である。成人がすることに年長が文句をつけるのはパターナリズムであって、口出しする筋合いもないのだが……。どうにも割り切れないものが残った。

My Own Dig

 午前は家事とBandcampのカートの清算に新譜チェックで終わった。今日チェックしたのはたぶん200枚くらい。平日の時間はほとんど歌ってみたのディグに費やしているので、Bandcampの新譜チェックは必然的に土日に追いやられる。
 正直なところBandcampのディグは他人がやっているので、それを頼りに出来るし良いかと思っている節はある。一方で歌ってみたディグはほとんど誰もやっていないので、私が取りこぼしたらもう回収するのは不可能である。そうすると取りこぼす可能性が高いのは後者であって、そちら側にリソースを振り向けることになる。
 「エクスペリメンタルは最も情報が整理されていてディグをやりやすいジャンルだ」という主旨のツイートを見た覚えがあるが、全くその通りだと思う。探す方法もとにかく手あたり次第に曲をYouTubeの検索窓に打ち込むしかないし、誰かがやっているとしてもその結果はどこにも整理されていない。とにかく全部自力である。
 正直今までのBandcampの使い方は、基本的にBandcampの記事か誰かのツイート、レコード屋のリリース情報などを頼りに作品を見つけるか、フォローしているレーベルからのメールをチェックするかで、とにかく受動的だったという自覚がある。私は今生まれて初めて能動的なディグをし、自分だけが知っているものを愛でている。とても生きているという感じがする。

生身へのリスペクト

 記事のリンクは載せないが、知名度のある音楽リスナーがkurayamisaka - kimi wo omotte iruを「大の男がこんな物語を考えているのはキモすぎる」と評していたのを数か月前に目にした。そのことに対する激しい怒りが月に1回くらいフラッシュバックしてくる。マチズモと女性性の崇拝のキメラで、今一番見苦しい"オタク"の物言いだし、百合というジャンルとその発展を支えてきた作家に対しても極めて失礼だと思う。
 別にこの人に限ったことではないが、音楽リスナーならびに制作者の中でも、女性性をやたらと崇拝しているような人が散見されるのがこのところしんどい。結局のところ人間を性別でしか見ておらず、一人の人間としてリスペクトできていないということだし、一人ひとりの異なる個体が異なるものを作り出しているアートというものに長く触れていながら、そういう考え方になってしまうのはとても残念だなと感じた。

聴いたもの

 ここしばらくで良かったものをダイジェストで。

haya na - ドーナツホール(cover)

 今一番勢いのある歌い手はやなさんのドーナツホール。この人は歌もミックスもMV制作も全て自分でやるし、界隈の歌い手のMV制作にも関わっていたりする。
 本家GUMIや米津玄師のセルフカバーとは違う、か細く切実な歌声がドーナツホールの切なさを一番引き出している。歌ってみたが面白いのは楽曲リリース時点では想定されていない別解を導き出してくるところで、これはその最たる例だと思った。

 以下はやなさんの良かった動画をいくつか。登録2桁の時期から見ていたはずなので今もう400人もいるのは感慨深い。

 これがオリジナルMVなのが信じられない。一つ一つの発想がぶっ飛んでいつつもちゃんとかわいい。

Parfaitty - LADY(LILPA Arrange)(cover)

 文脈を整理すると、Lilpaという韓国のVtuberがおり、その人が出した米津玄師 - LADYの韓国語版カバーが物凄く伸びた(今日の時点で532万再生)。同じく韓国語ネイティブらしいVtuberのParfaittyがその人の訳詞を使ってカバーしたのがこの動画である。
 インスト自体は在野のカラオケ音源なのだが、この人のいかにもアニメ声的で愛らしい歌声が、米津玄師の洒脱なサウンドの上に乗ることで、限りなくフィクション的(キャラソン的)でありつつもささやかな幸福と日常を感じさせて強く胸に迫ってくる。Twitterで萌え声どうこうという話をしていたのだが、結局のところ私が求めているものの一つはこういったようなもので、強く虚構性を感じさせるが故に、最もエモーショナルであり得るという転倒なのかもしれないと思った。

Nyk4 - ロストアンブレラ(yuigot Remix)

 読み方は「にゃか」。隅々まで力の漲った歌唱がダブステップのビートを融通無碍に乗りこなしている。最近出てきた人の中で一番期待できる歌い手。

yowa - Ditto(cover)

 『生活は簡単じゃないね』などのエモーショナルな楽曲を得意とする歌い手yowaのNewJeansカバー。NewJeansのバージョンはそのレベルの高いプロダクションやエレクトロニックな質感に加工されたボーカルもあってY2K時代の10代的なノスタルジーとエモーションを外側から描き出すサウンドである。一方でこのバージョンはさほど高価でもないマイクでの弾き語りということもあって、意中の相手の煮え切らない態度に焦れた少女の感情が一人称視点から語られているのを強く感じる。自分の生きている時間を「アオハル」と相対化して語ってなどいられなければ、何らかの表象をレプリゼントする余裕もないエモーショナルさはNewJeansよりも強く十代的で、コンセプトとサウンドのフィット感がとても心地いいカバー。

美雲このは - リレイアウター(cover)

 美雲このははレンタルサーバーサービスを展開するConoHaのオリジナルキャラクターで、上坂すみれさんがCVを担当している。早い話が上坂すみれさんのボカロカバー。
 歌い出しを聴いた瞬間月ノ美兎委員長かと思ったのだが、一音一音の処理とグルーヴのレベル、声色のトーンを維持しつつも繰り出される多彩な歌唱表現のレベルが在野のインターネットシンガーのレベルを遥かに超えている。本職の声優の凄みを思い知った。

 以下Bandcampで買ったものを。

Jeff Rosenstock - HELLMODE

 USのDIYパンクシーンの重鎮の最新作らしい。全く知らないのでレコードショップのライナーをパクった。
 おそらくヤバいTシャツ屋さんなどのサウンドのルーツとなったであろう、底抜けにポジティブで楽しいパンクアルバム。シンガロングも山盛りのコーラスも何の躊躇いもなくドカドカ積んでくるところにHyperpop以降の感覚を感じた。正確にはこの人はおそらく変わっていなくて、私がHyperpop以降の慎みのない感覚に適応していったのだろうけれど……。

Yussef Dayes - Black Classical Music

 UKジャズシーンの筆頭ドラマーYussef Dayesの最新アルバム。"UKジャズ"という言葉が浸透し始める前、Chris Dave以降くらいの時代から新時代のジャズを切り拓いていたオリジネーターらしく、USデトロイトスピリチュアルジャズやラテンジャズ、Jaco Pastoriusフュージョンなど、USから始まって多様に分岐したジャズの歴史を辿り直し、"Black Classical Music"という一つの言葉の元に再統合しようという壮大な試みが感じられる。現在のUKシーンのメルクマールは"London Brew"だろうけれど、現代ジャズシーンとしての到達点にはこちらのアルバムが適任だろう。今年を代表する傑作の一枚。

Titi Bakorta - Molende

 Nyege Nyege Tapesからのリリース。コンゴのポップスやフォークを消化したサウンドとのことだが、正直これがどういうロジックで成立している音楽なのか全然分からない。音色一つ一つの選択や配置にはまったく迷いが感じられないし、統一感も感じられるのだが、どういう快楽原則に則っていてどこに球を投げ込んでいるのか皆目見当もつかない。西洋の音楽シーンに慣れた耳では解釈の難しい、極めてローカルな音だなと思った。個人的に今年の印象深い作品の一枚。

D/P/I - Maldita Vida

 メキシコのサウンドシステムやミックステープのカルチャーにインスパイアされたという作品。インダストリアルを基調にラテンアメリカレゲトンやDeconstructed Club、ドラムンベースなどが融合したような、異様な音像でありながら極めてストリート的な快楽原則を持つはちゃめちゃにかっこいいアルバム。CDを買った。

読んだもの

いしいひさいち - ROCA: 吉川ロカ ストーリーライブ

https://amzn.asia/d/bllCPLL

 話題になっていた作品をようやく購入。とんでもない傑作だった……。
 物語の中心となるのは「ファド」というポルトガルの国民的歌謡で、単語としては「宿命」を意味する。読者のほとんどが知らないであろうこのジャンルが持つ複雑な感情の綾を、150ページかけて思い知らされてしまった。正直読んでいても全然聞こえなければ感じられもしなかったファドの音と情緒が今では完全に分かるし、これを書いている今でもその情緒の重みによる虚脱感が抜けていない。凄まじく切れ味の鋭い百合だった。

8/26

今日も朝日記。

できたこと

  • 洗濯

雑感

今日

 今日は札幌駅に出てロフトで買い物をしたり同人誌を回収したりスーパーに買い物に行ったりする。残りはガストにこもって勉強。

動員と導出

 最近は仕事・Twitter・音楽・睡眠・仕事・Twitter・音楽……という感じで生活がルーティン化していて、自分の内面が擦り減っていくのをひしひしと感じる。具体的に言うとTwitterから離れたところでは自分の中から言葉が生まれてこず、Twitterを見、炎上なり話題を見かけて、その集団的なテンションに動員されて初めて自分の言葉が引き出されてくる。
 原因は明らかに音楽の比率が高すぎることにある。Bandcamp Fridayや帰省が重なって一日で300枚くらい新譜のリリース通知が来ることもあって、その消化に時間をかけていたら他のことなんてできるわけがない。最近は本当に気になるリリース以外は意識的にチェックしないようにしている。社会人をやりながら何でもかんでもやるのは無理がある。

猛暑

 暑すぎる。ここ2週間くらいずっと30度ある気がする。5分も外に出れば水を被ったように服が汗になるし、家にいても冷房をかけていないと瞬く間に頭が茹だってくるし、暑くて起きてしまうので6時間の睡眠が確保できない。早く秋になってほしい。

プカ

 友人に誘われてスープカレーを食べに行ったのだが、その店が全然おいしくなかったのをずっと引きずっている。2000円近く払ったのに……。
 そういうわけで先日材料(夏なので夏野菜たくさん)を買ってきて自作した。自分の料理の原動力は「自分には(これよりも)おいしいものが作れるはずだ」という確信らしい。実際自分の方が美味しい。「スープカレー作ったから食べに来ない?」と友人を招く口実にもなっていいことずくめなので、コロナ感染以降おろそかになっていた自炊をそろそろ再開しようと考えている。

聴いたもの

 いろいろ聴きすぎてもう覚えていない。

宇多田ヒカル - Gold ~また逢う日まで

music.youtube.com

 宇多田ヒカル新曲。"君に夢中" "One Last Kiss"のA.G.Cookプロデュースということで、Hyperpop以降のエモーショナル・鮮やかな音使いながらも洗練された記名性の強いサウンドを予想していたのだが、実際に聴いてみたら全然違うものが出てきてびっくりした。
 そもそも「宇多田ヒカルをA.G.Cookがプロデュースした」という印象自体が裏切られている。ピアノの一音一音のテクスチャーが磨き抜かれたハウス系のサウンドは、A.G.Cookのサウンドとしては控えめすぎるが、宇多田ヒカルサウンドとしてはエレクトロニックな洗練がなされすぎている。ここでは宇多田ヒカルとA.G.Cookの作家性が対等にぶつかり合い、どちらが欠けても成立しない絶妙なバランスの音が生まれていると感じた。

NewJeans - ETA

music.youtube.com

 NewJeansの話題の楽曲。今更という感じもするのだが、個人的に面白いなと思った部分があったので書く。

 B-Moreサウンドだとかいう話はもう散々なされているので措いておくとして、YouTube広告でこの曲のフック("What's your ETA What's your ETA")が流れてきた時、なんだかものすごくつまらない楽曲のように感じて驚いたのだが、その理由が上記のアウトスケールの妙味にあるのではないかと考えている。
 この曲の特徴は何かと言えば、Fの音の執拗な連打だろう。イントロからアウトロまで鳴り続けている粗いホーンはFの音しか鳴らさないし、メロディラインの起伏もフックも、とにかくFの音を基点としてスケールを上り下りしている。こうしたFの多用とスケールへの印象付けがあるからこそ、フックの"What's your ETA"で登場するF#のアウトスケールが強烈な印象を残すという仕掛けになっている。
 このアウトスケールにはちゃんと伏線がある。"답답해서 그래"の箇所で、私も読めないので指定するとAメロの1節目、"No, you better trust me"の次の箇所で、バックのエレピがF#のコードを弾いて緊張感をもたらし、Fに着地して解決する瞬間がある。このF#→Fという下りによって解決させたコードを逆に使い、緊張した状態でリスナーを宙ぶらりんにしているのがフックである。これに気がついた時には本当によくできている曲だと感動した。

 "ETA"の面白さは単にビートの新鮮味だけでなく、何を聴かせるか(この場合であればアウトスケール)、そのためにどういった構成を取りどういった仕掛けを施すかというコンセプトと細部の対応がばっちり取れていることだという話がしたかった。とりあえずイントロとサビだけ聴いて残りは飛ばし飛ばしで適当に……というような聴き方に寄って行ってしまいがちな時代に(自分もそうだし、YouTubeでシークバーにマウスオーバーした時に表示される「最も再生された箇所」もその傾向がある)、楽曲全体を使って聴かせる曲が出てくるというのはそれ自体がすごく挑戦的なことだなと感じた。

7/30

できたこと

  • 洗濯
  • 漂白
  • 皿洗い

雑感

 昨日の夜にフロアに行った。人間は二日連続でパーティーに行くと疲れることが分かった。
 Francois K.とMaurice Fultonの回で、Francois K.はジャズとファンクをダンスミュージックとして一番盛り上がる場面でかけていたのが"Body & Soul"的な歴史性を感じてとてもかっこよかった。山下達郎の"Love Talkin'"がプレイされた時は一瞬身がこわばったが、結局は踊ってしまった。これについては「まあ踊るくらいいいか」と曖昧にしてしまったのだが、振り返ってみてそれが正しかったのかは整理がついていない。作品と作家は別か、言い換えれば作家の現在の行いによって当時イノセントだった過去の作品へのスタンスを変えるべきかどうかについては、Ametsub以来ずっと保留になっている。山下達郎本人が性加害を行ったり、積極的に加担したわけでもないので、あまり同一のものとして考えるのも違う気はするが……。
 正直Francois K.についてはそこまでフィットするプレイでもなかったのだが、それに続いたMaurice Fultonのプレイがすごかった。Donna Summer - Bad Girls、Talking Heads - Pull Up The Rootsなどのダンスクラシックを惜しみなく投下してフロアを熱狂させつつ、選曲の順番やリミックスの選び方によって常にフロアをタイトに引き締める様は"王"という形容がぴったりだった。

今日

 フロア明けで4時間しか眠れなかったので一日中とても眠かった。睡眠はちゃんと取った方が良い。

 好きなインド料理店が営業を再開したので行った。美味しい。また明日も行きたい……と思ったがビアガに誘われたのでまた今度。
 その後札幌駅を適当にぶらついて桃フラペチーノを飲んだ。フラペチーノの定義は「ミルクと氷とコーヒー(その他任意の飲み物)をミキサーにかけたもの」らしい。知らなかった。店内用のコップはプラスチック製だったが、個人的にはガラス製のコップで飲みたかったな……とほんのりとした不服があった。片付けの楽さとか割れた時のリスクとかいろいろあるんだろうけども。しかし私はガラスの容器でフラペチーノが飲みたい。

 その後実家に行ってキャンプ用品をもらってきて、ついでに鰻をごちそうになった。おいしかったが、母親が私がつみたてNISAをやっていることについて「どうしてそんなことするの?」「本当につみたてNISAが何なのか分かってるの?」「絶対暴落するから来年中には換金した方がいいよ」などとなじるようにして否定し、「この本を読めば分かる」「勉強した方が良い」などと数冊読んだくらいの知識でマウントしてくるのでとても気分が悪かった。「来るたびにそんな話をするならもうここには来ない」と返したが、向こうは「どうしてこの子は分かってくれないのだろう」くらいにしか思っていないだろう。その想像だけで疲れてしまった。

聴いたもの

 フロアでかかった曲の中で良かったものを並べておく。

大名曲。

大名曲2。

7/29

できたこと

  • 洗濯

雑感

朝日記

 起きたはいいが暑いし昨日のクラブで疲れているので日記でも書く。
 昨日は給料が下りて最初の金曜日だったので中華を食べに行った。店員さんに顔を覚えられ、味付けを私好みに辛くしてくれたり、お茶をサービスしてくれたりとあれこれやってくれて嬉しい。この前食べた火鍋がおいしかったのでまた誰か連れていきたい。

鮮やかさ

 水星の魔女の「結婚」という単語を巡るあれこれを見た。一度出したならそのままにしておけばいいのになんで電子版で急に引っ込めるという判断がまかり通ったのか不思議でならない。
 そのあたりの話を見ていて、ではなぜ私は同性婚が法的に認められてほしいのだろうとふと考えたのだが、それはやはり知人のためだなと答えが出た。私は(属性をアイデンティティにするのは気が乗らないが)おそらくアロマンティックなので、別に婚姻の自由が自分にあろうがなかろうが結婚に関わることはまずなく、従って同性婚の問題は"自分ごと"ではない。「海外では同性婚が法的に認められている」という主張もよく耳にするが、それでは主張が弱いというか、西洋/グローバルトレンドに合わせるべきだという自我の希薄な考え方は自分には合わない。私はただ知人たちがしたいことをできる世界であってほしく、それが理不尽に阻まれているなら解消されるべきだと思う。もっと"大義"のために活動をしている人は本当にすごいと思うが、私はこれが精一杯である。

 話を一旦水星の魔女に戻して、最終話付近で「指輪を付けているからスレミオは結婚した」という盛り上がり方をしている時に、この作品はこれ以上観ないだろうなと思った。ちょっとアクセサリーの種類と暗示の仕方が変わっただけで、やっていることがリコリス・リコイル最終話と同じである。ノワール(ないし月村了衛が90~00年代に手がけた脚本)から進んだ感じがしない。言葉にしないこと、婉曲に視聴者に伝えることの普遍的な美しさについて否定はしないが、2020年代というこの限局された時代に限っては、私は一旦この美学を明確に否定したい。今の私は直截的なもの、視聴者を怯ませるようなビビッドなものを求めている。慎ましさばかり押し出される状況には本当に飽きてしまった。

 追記:「左耳ピアスはレズビアンの記号」という話はもう時代遅れの感があるが、左耳にピアスをつけた"分かりやすい"レズビアンが明瞭に描かれることはついになく、表現として時代遅れになったのでもなく、内実を欠いたメタとして、ただそう発言する人だけが"時代遅れ"とされる空気だけが残ったことに対する違和感がずっとある。今左耳ピアスのレズビアンをやったって全然いい。記号を記号として一旦やり切ること、評価のたたき台を作ることには価値がある。

DIGICYHPER

http://www.plastictheater.com/schedule/2302.html

 札幌の老舗クラブPlastic Theaterで面白そうなパーティーが開催されていたので行った。コロナに感染してから二か月弱、ようやくのナイトライフ復帰となる。目当てはハナカミリユウとtovgoの二人、というかそれ以外のメンツをほとんど確認せずに行ったのだが、lilbesh ramkoにBHS SvveにPARKGOLFと現行インターネットシーンの面白い人が集まっている回でとても楽しかった。
 特に良かったのはハナカミリユウとPARKGOLF。前者はとにかく選曲のキレが頭一つ抜けており、クラブシーンの硬派な音とインターネットシーンの激しい音の核心的な部分を的確に繋いでいくプレイが自分好みだった。callasoiled "悪癖"という大名曲がかかったのも嬉しい。

 後者はマシンライブ。現行シーンのクリシェに頼らず、バブルガム・ベースを根底に持つ強烈な高音域のメロディを鳴らしながらも、シンゲリを彷彿とさせるような原始的で高速なビートを鳴らしていたのが本当にかっこよかった。

ひとまかせ

 最近はレコードショップの入荷情報をよく見ている。エクスペリメンタル/民族系ならArt Into LifeとかMeditationsがメインで時々ReconquistaとかShe Ye Yeあたり、クラブ系はnaminoharaとNewtoneあたり。というのは、一人で聴いていると一人で聴いているなりの狭いものばかり手に取ってしまう気がしたから……というか実際にそうなっているから。
 去年くらいまでだったら自分で掘り進めて自分で良し悪しをジャッジするのが最上だと言っていただろうが、その時にはあまりフィットしなくても、一旦レコメンドを信頼して買ってみて、ゆっくりと向き合うことで面白さに気がついたという経験がだんだんと増えている。そうであれば、自分でしっかりと掘るのは当然のこととして、他人のレコメンドにとりあえず乗っかってみるというのも全然ありだと思うし、実際そのことで聴ける音楽の幅は広がっている。しばらくはそういう感じでやってみようと思う。
 以下の作品なんかはまさにその例でとても面白かった。

聴いたもの

 歌みたから。

赤見かるび - 味楽る!ミミカ ナンバーワン(Slax Remix)(cover)

 NHKテレビジョンで放映されていた『味楽る!ミミカ』という番組のOPを、イタリアのslaxというトラックメーカーが"Mimika Euphorica"というタイトルでリミックスしたものを、VTuber赤見かるびさんがカバーしたもの。選曲もリミキサーもコアすぎて全然分からないが、赤見かるびさんの電波ソング的な独特な声質と、ロシア民謡的なフレーズを主軸に据えたトランスがマッチしていてとても好き。このところ毎日聴いている。

カグラナナ - 初恋日記(cover)

 百鬼あやめさんや飴宮なずなのキャラクターデザインで有名なイラストレーターななかぐらさんのV名義での歌ってみた動画。スイートで耽美的なトラックの上に、天音かなたさんにも近いやや嗄れたような声による歌唱が乗ってかなり好きな感じになっている。Aメロの低域を出すために声帯を無理に使っているところが特に良い。

むト - デーモンロード(cover)

 MAISONdesや須田景凪の楽曲へのフィーチャリングで知られるむト(名前の由来は「無色透明」のよう)のデーモンロード。可憐ながらも人を寄せ付けない芯の強さを感じさせる歌唱でとても良い。
 この音源は特にミックスが面白い。こういったリバーブ控えめのロウなミックスでは(特にデーモンロードのような音が強烈な楽曲では)ボーカルがトラックに埋もれてつまらなくなることが多いのだが、この音源では両者が自然にフィットしている。理想的な仕事だなと思った。

 ミックスを担当したt.oさんの仕事を観ていたら神白ニアさんの"Boi"があった。先日見つけて良いなと思った音源で、点と点が繋がった感じがある。

 これはやや怪しいもの。

いよわ - 超ボカニコ2023

 いよわの超ボカニコ(ニコニコ超会議のボカロオンリー音楽ステージ)のライブの様子がおそらく無断でアップロードされていた。いよわのコアにあるジャズ・クラシック・ドラムンベース・ジャングルの要素が前に出たプレイで、的確に楽曲にコードを当てていくのがかっこよかった。DECO*27 - ジレンマをボカロシーンとジャングルの交点としてプレイするところが好き。
 途中のMCでバベルの投稿が宣言され、「今から流す新曲、歌ってくれてるのは……重音テトさんです」と言った瞬間にリスナーから大歓声が上がるところはこちらまで目頭が熱くなった。クリプトンのボーカロイドシリーズだけではない、広義のボーカロイドを心から愛する人たちの場という感じがした。

 以下買ったCDを数枚ほど。

吉増剛造 - 石狩シーツ

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/DS181114-001

 試聴音源なし。Scott Fraserなるアーティストのアンビエントサウンドの上で、詩人吉増剛造が詩の朗読を行う音源。
 この頃は音響詩やポエトリーリーディングに関心が向いているのだが、その中でも破格の一枚だと思った。
 とにかく吉増剛造という人間の声の力が凄まじい。イメージの飛躍が強くて詩の意味は追えなくとも、ひとたびこの詩人の口から発せられると、一言たりとも聞き逃せなくなる上に、この人の中では全ての言葉が明確に結びついているのだとしか思えなくなる。言葉一つでここまで空間を支配してしまうことができるのだな……。

Mono Fontana - Ciruelo

 Luis Alberto Spinettaの後期バンドで中核を担ったというマルチプレイヤーMono Fontanaのファースト。アルゼンチン音響派の名盤との触れ込みにつられて購入。
 Mono Fontanaを聴き始めたのはセカンドの"Cribas"からで、水のように心地よく流れるアンビエント的音楽性の印象が強かったのだが、再生した途端怒涛のようなサウンドが流れ出してひっくり返ってしまった。ジャズとアルゼンチンフォルクローレを基調としながらも、フィールドレコーディングやクラシックのオーケストレーションも取り込んだ独特の語法で奏でられるサウンドで、かなり集中して聴いていてもそこで何が起きているのかがほとんど把握できない。
 個々の音色の解像度に極端な開きがあることが、全体としての把握を難しくする一因かもしれない。民族音楽らしいパーカッションや笛、ドラム、あるいはウッドベースといった音はかなりリッチな鳴りをしているのだが、一方でキーボードやシンセストリングス、シンセサックスの音色は80年代の機材でも使っているようなぺらっぺらの音をしている。これらの音がどう整理されているのか分からない組み合わせで、しかも目まぐるしく主役を交代しながら奏でられるため、アンサンブルの把握が難しくなっている(もしくは把握させないような構造になっている)。
 何にせよ、押し寄せてくる圧倒的な音世界をただひたすらに浴びるという体験は本当に久しぶりで新鮮だった。今後長く付き合いながら少しずつこの作品を紐解いていけたらと思う。

ゆらゆら帝国 - Sweet Spot

 ゆらゆら帝国の10枚目のアルバム。このバンドを知ったのはLCD SoundsystemのJames Murphyが主宰するディスコパンクレーベルDFAから「空洞です」がリリースされていたのを見つけたのがきっかけだった。ミュータントのような奇妙なギター・ベースの音像と異様な切れ味のドラムのアンサンブルと、それにしては妙にふてぶてしいメロディラインが面白いと思いつつ、そこから興味関心が続かずそれきりになっていたのだが、この前なんとなく中古CD屋に寄ったら数枚置いてあったのでまとめて買った。
 60年代以降のサイケデリックロックの全ての中から、年代問わず好きな要素を好きなように組み合わせて作り上げたような、物凄い強度のサイケアルバム。「空洞です」(とバンド名)から想像していたゆらゆら帝国サウンドは、変なところに切れ味のあるサイケデリックポップくらいのものだったのだが、「Sweet Spot」を聴いたことで、この坂本慎太郎という人物は私が考えている数百倍くらいサイケが好きなのだなと認識が改まった。音だけの印象だが、坂本慎太郎は本当に"全部"聴くくらいの勢いでサイケが好きなのではないだろうか。そうでもなければこの引き出しの異常な広さと一曲ごとに詰め込まれたアイデアの数には説明がつかない。
 特に好きな曲は3曲目「ロボットでした」、5曲目「タコ物語」、6曲目「はて人間は?」あたり。

 以下Bandcampでの買い物。

Blake Mills - Jelly Road

 Pino Palladinoとの共作"Notes With Attachments"で知られるアメリカのギタリストBlake Millsの最新作。カントリーを基調にしつつ、巧みな楽器の配置によるアレンジの豊かさが楽しめる一枚。
 現代においてギターの音色やプレイというものはあらかた出尽くしているという印象があり、後は音楽性の組み合わせ方だったり、様式の中でどのように100点を取るかというディテールの詰め方だったりがリスニングのフォーカスになっているのだが、ここでのBlake Millsのギタープレイは滋味に溢れ、かつとてもフレッシュで、まだギターも全然やれるなと思った。どの曲も良いのだが、ハイライトはやはり4曲目"Skeleton Is Walking"。

Local Visions & 長瀬有花 - OACL

 だつりょく系シンガー長瀬有花と、Vaporwave以降のポップミュージックを模索するレーベルLocal Visions所属アーティストの共作アルバム。

 ここで言い尽くしているのでこれ以上付け加えることはない。私はこの人の「脱力」というコンセプトには特段惹かれないのだが、今回に限って言えば、世界観に対して肩肘を張らない、ただそれぞれの曲の描き出す世界観の中で気ままに漂っているだけのような自在さが、こちらには見向きもしない、手を伸ばしても届かない記憶の中だけの少女像のような形に結実したような感覚があり、それが好きだなと思った。こういうコンセプトから外れたところで偶然に生まれる味わいがとても好き。

Various Artists - Coco María presents Club Coco ¡AHORA! The Latin sound of now

 タイトルに全部書いてあるのだが、現代南米シーンのクラブ系サウンドのコンピレーション。リリース元は今最も信頼できるリイシューレーベルことLes Disques Bongo Joe。南米とは言っても今世界的な広がりを見せるレゲトンの楽曲は少なく、もっと癖の強いトロピカルなサウンドがここには集められている。
 このコンピレーションが提示するのはラテン音楽のディテールの豊かさである。たとえば「レゲトン」のイメージというのはリズムパターンであって、どのような楽器がどのように配置されるかという細部については捨象されることが多い(DJ Pythonのディープレゲトンによりこのジャンルの知名度が広がったというのも一因としてある)。しかし、ここに収録された楽曲は定型のビートを持つわけではなく、古典的なラテン音楽の楽器構成やムード、アレンジの密度をキープしながら現代的な音にアップデートすることに主眼を置いているように感じた。ラテンと言えばレゲトンかトラップ、という形のある種オリエンタルな受容がなされている現代において、ラテン圏の音楽の歴史の長さと音楽的蓄積の豊かさを伝える試みとしてのこのコンピレーションはとても価値があるように思う。
 やはりどの曲も素晴らしいのだが、ハイライトは6曲目"Juan Hundred - Always Ready To Smoke"。異常につんのめったリズムに合わせて頭を振らずにはいられない。

Various Artists - 'Yebo! Rare Mzansi Party Beats from Apartheid's Dying Years' compiled by John Armstrong

 80年代南アフリカのシンセディスコ"Mzansi"のコンピレーション。TR-707という機材を使っているらしく、いかにも80年代的なチープな質感が感じられる。
 リズムマシンもそれ以外のインストも全て音色としてはチープなのだが、甘いハーモニーのコーラスと、アフロポップ的なコード感が組み合わさることで、唯一無二の魅力が生まれている。西洋的な洗練を通らないローカルシーン特有の直情的なコード感と、薄い低域による浮遊感にはどこかボカロ曲に似た味わいがある。