できたこと
- 料理
雑感
充実
日記も書く暇がなかった。この頃は音源のリリース量がちょっと尋常でなかったのに加えて歌い手の歌ってみた音源ディグが始まり、さらにはまだ取っていない基本情報技術者試験の勉強を始めたのが原因。早く取って楽になりたい。でも勉強はしたくない……ディグが楽しすぎて……。
BIG FUN
http://www.precioushall.com/schedule/202209/bigfun2022.html
行ってきた。札幌の最高のクラブPrecious Hallが主催する芸術の森での野外フェスで、Francois K.やJoe Claussellなど毎年大物DJをゲストに迎えているのだが、今回はコロナ禍もあってか参加者は全員が日本人。
開始一時間後に到着すると早速地元でパーティーを主催するUmiさんがプレイしている。一番手ながらもPrecious Hall仕込みの渋くフロアをじっくりと温める選曲で、選曲もフロアコントロールも匠の技を感じた。良かった曲はアフロファンクをミニマルにエディットした"Cos-Ber-Zam - Ne Noya (Daphni Mix)"。一分半を過ぎたところで加わるリバーブの深い低音がフロアを宇宙空間に塗り替える。
続いて地元のスペースジャムロックバンド宇宙文明のライブ。正直このバンドは退屈なので休憩時間として給水したり本を読んだりしていた。時々メインフロアに目をやると8割は埋まっているし全員が大興奮している。遠巻きに音を聴いていたがやはり良さは分からなかった。
続いてNewtone Recordsのバイヤーを務めるというYAMA。前のBIG FUNのプレイが良かったので期待していたのだが、フェスという場に合わせたのかどうにも大味な選曲が続いて正直微妙だった。お腹が空いてきたのでフェスらしくカレーを買いに行く。ケバブチキンと無水カレーの合い掛けというものがあったのでハラペーニョトッピングで注文。ケバブというわりに辛味がなく、ハラペーニョを足したのは正解だった。家でも作ってみてもいいかもしれない。ハイデラバードビリヤニはとにかくそこにあるカレーを全部ライスに混ぜて食べるものだ、と学んで以来カレーの類は全部ごちゃ混ぜにして食べることにハマっており、今回も例に漏れずごちゃ混ぜに。カレーにハラペーニョの辛味が加わるとさっぱりしてけっこういける。
良かったトラックは無感情な声ネタとトライバルパーカッションが気持ちいい"Butch - No Worries (Toman Rmx)"。
余談だがButchと言えばRunning Backからリリースした"Desire"がかっこいい。裏拍で入ってくる水音のようなパーカッションがステップを踏む足を軽くする。これはPrecious Hallに誰か著名な外タレが来た時にプレイしていて気が狂うほど踊った覚えがある。それこそGerd Jansonだろうか。
前日リコリス・リコイルを見ていたというのもあってこのあたりで眠くなってくる。次は札幌の誇るディープハウスプロデューサーKuniyuki Takahashi。後で知ったが今日はNewwave Project名義でのマシンライブ。リズムマシンらしい無機質で均一な鳴りの音色を調整し、楽曲全体が一つの機械として蒸気を噴きながら駆動する様が見えてくるようなサウンドで、爆発まで20分近く使って焦らしていく様がたいへん良かったのだが、眠気が来ていたというのもあって小さくステップを踏みながら頭は完全に寝ていた。強烈なキックがズドンと入ったところで目が覚める。そういうわけで何も覚えていない。正直この名義より本人名義の方が好き。
(覚えている限りでは)ストイックなプレイを終えて喝采を浴びたKuniyukiがステージから退場すると、直後に異常な音色と四つ打ちとは似ても似つかない忙しないビートがスピーカーから鳴り響き、その場の全員が慄く。DJ Paypal"F M Blast"。
元BOREDOMSメンバーの山塚アイことEYE。基本的にPrecious Hallらしい上品なサウンドが届けられる場において次から次へとフットワークを繋ぎ、踊り方の分からない客が次々と棒立ちになり、前方で熱狂する客はますます熱狂する。ハウスミュージックを縦ノリで踊っている人は順応が早い。もうめちゃめちゃに足を動かし飛び跳ね絶叫している。私もフロアで浴びるのは初めてで、探り探りに身体をビートに合わせて動かしてみて、なんとか「足を細かく動かすと気持ちいい」「上半身も動かす」ということが掴めてくる。ハウスのように下半身のステップだけではない、全身を使って踊るタフな音楽だった。
そしてフットワークが止んだと思ったら今度はブレイクコアや高速テクノなど、インターネットにおける"FASTER"のノリでどんどんサウンドが狂暴化する。この辺は足を動かすのに必死で全然Shazamしていない。あとサンプル元が引っ掛かってきてその曲自体に辿り着けていないケースもしばしば。
アフロビーツという近年勃興しているアフリカ発のビート(アフロビートとは異なる)の楽曲らしい。高速アフロハウスでかっこいい。
Traxmanなので当然フットワークなのだが、治安が凄まじく悪い。知らなかったがアンセムらしく、日本のUKGDJのHaraさんが以下のリミックスをよく掛けていると言っていた。
その後もめちゃくちゃをやって(終盤には普通にノイズをかけていた)EYEのターンは終了。ついに大トリの石野卓球が登場。この人はフェスに合わせて大味目(派手目)のテックハウスを披露。それでも時々バンガーが投下されてフロアから歓声が上がる。
残り一時間あたりからテンションが上がり、主力のアンセムをガンガン掛け始める。"Renato Cohen - Pontape"、"Dead Or Alive - You Spin Me Round(Like A Record) (Murder Mix)"など。観客も大盛り上がり。
これは個人的に好きすぎてイントロのカウベルが鳴った瞬間に叫んだ。
— 栞にフィットする角 (@__Blurry_) September 4, 2022
"You Spin Me Round(Like A Record)"に繋がれた曲。
そして必殺のアンセム"Ben Kim - Somebody To Love"の投下。盛り上がりすぎて死ぬかと思った。
最後に一曲ディスコハウスを投下してパーティは終了。EYEが型破りの破壊的なプレイをした後で何をするつもりかとハラハラしたが、蓋を開けてみればいつも通りの卓球の横綱相撲だった。正直に言えばPrecious Hallでプレイするときの密度の高い選曲の方が好きだが、場所に合わせて音を選びつつ、自分のコアにある曲はばっちりかけるプレイスタイルはとても良かった。次は箱の中で会いたい。
追記:帰宅したところでシャツにバッグの肩紐がこすれて色移りしていることに気がついた。これ洗濯で落ちるだろうか……。
Stephan Mathieu
Schwebung was founded in 2012. I will take my releases off the market today and want you to own the lossless audio and the stunning PDF booklets designed by @caro_m for @cabina.
— Stephan Mathieu (@stephanmathieu) September 4, 2022
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ドローンアンビエントの大作家Stephan Mathieuが作品をインターネット上から取り下げることが発表された。今日がその最後の日で、明日には本当に全てが消失し、聴く手段は買った人のBandcampコレクションのみとなる。
私がStephan Mathieuを知ったのはよろすずさんのツイートからで、記憶が正しければCelerのアンビエントにハマっていた時期だった。
特に『A Static Place』を初めて再生した時の柔らかい衝撃(本当に言葉通りこの感じ)は忘れられない。響きに瞬間的にあれほど魅了された経験はそれこそマイブラのTo Here Knows Whenとか数えるほどしかない。間違いなくAll Time Best Ambientの1つ。
— よろすず (@yorosz) July 14, 2020
これを読んで試しに聴いてみた"A Static Place/Remain"によって私の音の好みは大きく捻じ曲げられ、以降アンビエントの沼にずぶずぶと沈み込んでいくこととなる。
いろんなアーティストを知り、いろんなアンビエントを聴いた。感性の拡張に伴って視野は一気に広がり、アンビエントからドローンへ、ドローンからMerzbowへ、ノイズアンビエントへ……。しかしその中でもStephan Mathieuの音は一つの"正解"として自分が「戻ってくる音」であり続けた。
だからStephan Mathieuの音源の取り下げとは、言うなれば"正統"のアンビエントサウンドの時代が終わったことを意味するようにも感じる。近年勃興するWest Mineralやdaisart、sfericなどのレーベルはこれまでのアンビエント、広がりのあるサウンドスケープの中に没入するのではなく、むしろサウンドのディテールが有機的に生成変化し続けるという特徴を持ち、Brian Enoから始まったアンビエントとは性質を異にする。異端と言いたいのではなく、そこには歴史性と同時に異化と切断が存在している。そしてそれらのサウンドを聴くにつれ、私はStephan Mathieuのサウンドを聴く回数が減り、響きの心地よさより質感の面白さを求めるようになっていった。
Stephan Mathieuは音源制作をやめ、今後はマスタリング一本に絞っていくのだという。今後どのくらい彼のサウンドを聴くかは分からないが、それでも彼の仕事はずっと追い続けるだろうという確信がある。ジャンルの結論となりうるような傑作をいくつも発表したアーティストの仕事を信じて。