雑記

__blurry_のおぼえがき

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できたこと

雑感

斜陽

千ねんまえの下級貴族のかろやかな情事という役がとてもよく似あっているせいもあってか,春潮の若さがそのまひる月白を輝きしのぎ,すなわちそれはこの月白よりもこの春潮が美しいということではないのかと静かに認めて,どこかがねむくなりだしていた.
(『感受体のおどり』317番より)

 星街すいせいさんのこの頃のライブ・音楽活動を見ていると、どれもあまりフィットしていないように感じる。セカンドアルバムの出来はお世辞にも良いとは言えないし、参加する作曲者も昔ながらの人ばかり、昔ながらの音ばかりで新鮮味がない。ライブに合わせての新衣装はボディラインがかなり出るもので、これまでの活動の方針に比してかなり強い違和感がある。3Dライブの選曲はどれもいまいち噛み合っていない。二度目のTHE FIRST TAKEの選曲もポップすぎるというか、どうも歌唱の魅力を活かしきれていないし音楽的にも厚みがないように思った。

 違和感の正体を明確に感じたのは先日のお誕生日ライブの中盤だった。花譜さんがゲストに登場し、二人で『トウキョウ・シャンディ・ランデヴ』をデュエットした時、星街すいせいさんがこのトラックの高いテンションに追いつけない一方で、その隣の花譜さんは眩しく輝きながら荒々しく突き抜けるように忙しないフレーズを歌い上げた。残酷なくらいの対比を目の当たりにして、時代の境目だと思った。

 星街すいせいさん自体が何か変わったわけではないのだろう。しかし音楽のトレンドは変わり、時代の美意識は変わり、何より聴衆たる自分自身が変わった。同じところで同じように踊っている星街さんを見飽き、生きている人が伝統芸能に変わっていく様を目にしているという気がした。
 この人も何か模索している最中なのかもしれない。アイドルとしてスターダムの頂点に立ち、憧れの作曲者と曲を作り、双六を上がってしまって、それでもなお次の物語を求められているさなかであるから。求められ続けるのは酷なことだろうかと少し考えたが、全然そんなことはないと思った。表現者を応援するなんてもとからそんなものだろう。

 P.S. 2025年にスターダムの座にいる(そして新しく出てくるであろうシンガーにその座を脅かされる)のはおそらく花譜さんだろうとふと思った。P丸様。がそうであればいいが、あまり希望的観測はできない。ただ何となく直感でそう思う。

倦怠期

 最近は面白い音楽がない。数としてはいつもと全然変わらない量を摂取しているし、普段やらないことにも足を伸ばしているのだが、どれも聞き覚えがあったり、全然ピンとこなかったりで、これを買いたい!という欲望が全然そそられない。私が大量のインプットに疲れを感じ始めているのかもしれないが、正直自分で音源を探すことへの限界も感じ始めている。他人のプレイリストをもっと頼りにすべきかとも思うのだが、しかし面白そうなプレイリストを作る人はみんなSpotifyユーザーで…………
 さておき、やろうと思っていることは以下。

  • Apple Musicで作られたプレイリストを聴く。
  • SoundcloudYouTubeに上がったミックスを聴く。
  • 手持ちの音源を聴く。
  • 旧譜をディグる。
  • 今追っているレーベルのリリースを過去まで辿る。
  • Bandcampのジャンル名タグからディグる。

 今日はこれから深夜作業。角煮を作るつもりだったのだが全然何の用意もできておらず、それどころか風呂にも入れていない。さっさと入ろうと思う。

聴いたもの

Voices From The Lake - Voices From The Lake

 Donato DozzyとNeelの二人組からなるテクノユニット、その唯一のアルバムにしてアンビエントテクノの大傑作。電子音楽系批評メディアResident Advisorが採点方式を採っていた頃、滅多に出ない5点満点を獲得した作品として私の記憶にも新しい。このアルバムと言えば何を差し置いても音の美しさである。音数としては決して多くはなく、それもミニマルに同じ音が反復されるだけなのだが、そこには驚くほどのサウンドの豊かさと美しさが感じられ、「良い音だな……」と思っている間に10分近い時間があっという間に過ぎていく。ただぼんやりと浸っているうちに迷宮的なサウンド空間に迷い込み、頭が溶けた状態で踊らされるという点でこれは強烈なサイケデリックミュージックとも言えるだろう。
 これはもともと収録トラックがミックスされたバージョンがCDでリリースされていたのだが、先日のヴァイナル・デジタルリリースでようやくミックス前の音源が公開された。CD版はすでに持っているのだが、ミックスされていないバージョンが聴けるということで文句なしに購入。そもそもこれほどのアルバムであるからお布施としてお金を払うのでも悪くない。
 買った音源を実際に聴いてみたところ、これはミックス版の音源とは全然別の音楽だなと感じられた。ミックスされたバージョンは静かな立ち上がりから徐々にビルドアップして、エモーショナルな4曲目"Circe + S.T. (VFTL Rework)"を一つのピークに置き、そこから展開していく……という形を取るため、"DJミックス"としてのストーリー性が感じられる。しかし、ミックスされていないバージョンの場合では一曲ごとにフェードインとフェードアウトがあり、しかも平均10分以上(9曲で104分ある)の長尺であるためか、1曲ごとに情景が切り替わるような、あるいは1曲ごとに別の窓を覗き込むような感覚があった。そういった全ての曲をフラットに扱う聴取においては、抑制的でサウンドのテクスチャに注意を向けるサウンドが基調となる中でのエモーショナルな楽曲にはかなりの違和感がある。端的に言えばアルバムの中で浮いている。相当に優れたトラックであっても、作品としての物語り方によっては浮くことがあるというのを分かりやすく体感できて面白かった。