雑記

__blurry_のおぼえがき

2022年上半期ベスト音源

これは何

 2022年の上半期が終わったので軽くベストをまとめようと思い立った。ルールは以下。

  • 買ったものだけ:別に反サブスクが高じてのことではない。接触回数の問題として、買った音源以外のことをほとんど覚えていないから。
  • 2022年のリリースに限る:それはそう。気分が向いたら旧譜もまとめるかもしれない。
  • 順不同:並びに順位は一切関係ない。ただ目についた順に並べただけなので、リリース日もアルファベット順も整っていない。

アルバム

Batu - Opal

Crackazat - Evergreen

Harvey Sutherland - Boy

KMRU & Aho Ssan - Limen

The Smile - A Light for Attracting Attention

bvdub - Hearts of Stone

WEMA - WEMA

Afrorack - The Afrorack

Automatisme - Statique

FINAL - It Comes To Us All

Mina - TRANCEHALL

Mogao - Finger Pointing To The Moon

Marina Herlop - Pripyat

Ralph Heidel - MODERN LIFE

Stefano Pilia - Spiralis Aurea

Justin the Lover - Form and Function

Alabaster DePlume - GOLD

Boris - W

Julian Sartorius & Matthew Herbert - Drum Solo

Nahi Mitti - Aisaund Sings

Overmono - Cash Romantic

Rekid - 99

SOUL GLO - Diaspora Problems

Maria Moles - For Leolanda

SCALPING - Void

DKMA - Boston Boy (Vol. 1)

Shakali - Aurinkopari

Teno Afrika - Where You Are

Albert van Abbe - Nondual

Denzel Curry - Melt My Eyez See Your Future

Zeal and Ardor - Zeal and Ardor

Éliane Radigue & Frédéric Blondy - Occam XXV

SAULT - AIR

Spoon - Lucifer On The Sofa

Aiobahn - all connected

music.youtube.com

Pusha T - It's Almost Dry

music.youtube.com

EP・シングル

Spiller featuring Sophie Ellis-Bextor - Groovejet (If This Ain't Love) (Remixes)

Tiga - Easy

Bassfort - Moon Shadow / Moon Light (10th Anniversary Mixes)

Blackhaine - Armour II

Space Afrika - B£E ft. Blackhaine (aya wavefold)

Daffy & PJ Bridger - Way Back When EP

Duval Timothy - DYE

Duck Sauce - Put The Sauce On It

Fellsius - Jom / Kai

Small Car NRG - Road Legal

Sammy Virji - BLOOM

Skeleton King - Falling In Love

T5UMUT5UMU - Bantha / Jawa

Anunaku & DJ Plead - 032

Azu Tiwaline & Al Wootton - Alandazu E.P.

Bluetoof - Alakazam EP

Break & Total Science - Blame You / Aardvark

Byron Stingily - Testify(Kerri Chandler's Unreleased Dub Mixes)

Iceage - Pull Up

Floating Points - Vocoder

Jensen Interceptor & DJ Fuckoff - Club Angels EP

Solazz - Highlife Disco

Mani Festo - Leviathan EP

Nikki Nair, DJ ADHD - Rips EP

Xander - Restless EP

Air Max '97 - Psyllium / Eat The Rich

audiot909 feat.あっこゴリラ - RAT-TAT-TAT

Midnight Grand Orchestra - SOS

music.youtube.com

戌神ころね - Doggy god's Street

music.youtube.com

ロボ子さん- リルビ

music.youtube.com

Mori Calliope - MERA MERA

music.youtube.com

おわりに

 かなり激しいビートやノイズを取り入れた作品が多くなったように感じる。2022年はコロナ禍でアーティストがアンビエントテイストの作品を多くリリースしたというが、私はその逆に行ったものと見える。原因は明らかにメルツバウに触れたことだろう。というかアンビエントそれ自体で言えば正直飽きが回っているし……。、去年の四月に出たCeler "Malaria"が強力過ぎたということもあるけれど。

 このリストの多くはタイムラインで人々が話題にしていたもので構成されている。いつも良い音源をツイートで紹介してくれてありがとうございます。皆さんのおかげで私の音楽ライフが充実していると言っても過言ではない。これからもたくさん教えてください。

 2022年上半期はおそらく200前後くらいの数の作品を買っているのだが、印象に残ったもの、傑作と判別できるものに絞るとこれだけになってしまう……ということにびっくりした。下半期はもう少し絞っていきたい……せめて月3万円弱くらいに……。

7/4

できたこと

  • 出社
  • ゴミ出し

雑感

熱帯夜

 昨日は暑すぎて眠れなかった。おかげで寝不足のところに午後出社があり、疲れ果ててしまった。この体調でゴミを出しカレーを作り皿を洗い洗濯物を干せたのだから、今日は自分を褒めていい。

聴いたもの

P丸様。 - MOTTAI

 P丸様。の新曲。承認欲求の歌。
 この人の歌唱には独特の癖がある。楽曲のビートに対してフロウで乗る歌唱ではなく、パーカッシブかつ歯切れよく、いわばビートに対してビートを重ねるような歌唱というか。加えて、メロディの音程やリズムは外さないが、フレーズの末尾には普通に喋っているときのような吐息や跳ねや音程のくしゃっとした崩れが不規則に混じることで、聴き心地の良さとキャラクター的な魅力が両立している。

「その指止めて私を見て 私だけ見て それ以外いらない」もすごい。前二つのフレーズの末尾は切実に訴えるように音程の下方向へのずれとともに喉の詰まったような歌唱表現をするのだが、「それ以外いらない」ですっと安らいだような歌い方に切り替わる。緊張と解放の表現がとても自然な形でなされていて、こういうことができる人は滅多にいない。やはりすごい人だなと思った。

 この人は輝夜月名義での(今でも変わらない)コミカルな印象をもって受け止められていると思うが、エモーショナルな歌を歌っても一級のシンガーである。ピアノの透き通った音色に対して美声で応答するのでなく、その特徴的な喉を締め上げたような声そのままに歌い上げることで、響きに強烈なコントラストを生んでいる。

ロボ子さん - リルビ

 ここ最近ずっと聴いている曲。ホロライブ0期生のロボ子さんのオリジナル。
 まずはビートがかっこよすぎる。エレクトロファンクとハードロックにゴシックのカラーを差した、80年代Michael Jacksonサウンドを想起させる音使いの時点で相当に刺さっていたのだが、「Tick Tick Tick Tick Tick Tock Tock リルビ リルビ リルビ リルビ」の裏、あるいはサビにおける軽いスネアの乱打の言い知れない気持ち良さに完全に打ちのめされてしまった。

 コンセプトの面で言えば、聴いて分かる通りここで想定されているロボットはねじ巻き式の古いステレオタイプなのだが、ネジをキリキリ回しながら動く様子、あるいはネジが切れて都度巻いてもらう様子がトラップの細かいスネアの刻みとその静止によって表現されている。クールなビートがコンセプト的に必然的に組み込まれているというのは一番かっこいいと思う。
 最後にロボ子さんの歌唱について。この人の歌はいわゆる上手い歌ではない。それどころか明らかに意図されていない形でもたついたり走ったりするし、発声は安定しない。そしてそのことがこの人の魅力だと感じている。リズムの乱れは楽曲の中にリズムの緩み/遊びを生むことでビートの鋭さを際立たせる。発声の安定しなさによって、多様で一つ一つ固有の魅力を持ちつつ、全て"ロボ子さん"だと分かる強い記名性のある声音が万華鏡のように手を変え品を変え立ち現れる。その不安定さが次に何が出てくるのか分からない緊張感を生み、楽曲のテンションと噛み合った時には一層の感動を覚える。
 大仰なことを言えば、硬派なバックトラックに対してゆるいシンガーを乗せるというのはCANやポストパンクによってすでに確立された表現法である。それがアイドルと二次元カルチャーから再発明され、しかも他のカルチャーからは生まれ得ない固有の美質を備えてリリースされたことが奇跡的に感じる。こういうことがあるからVの音楽はやめられない。

 こちらはインスト版。これだけでも十二分にダンストラックとして通用する強度がある。

7/3

できたこと

  • 掃除
  • 洗濯
  • ランニング
  • 勉強
  • 読書
  • 買い物

雑感

最近の良かったこと

 箇条書きで。

  • DJ機材を買った:賞与が出たので買ってしまった。手持ちの曲を遊びで繋いでいるだけだが、楽曲を"流れ"の中で聴くことでその曲の好悪が浮き彫りになる感じがある。クラブミュージックのリスニング感覚が一歩進んだ。
  • ドライヤーを買った:これまでずっと自然乾燥でどうにかするしかなかったのだが、ようやく買えた。髪を乾かせるというのはすごい。
  • モンステラを植え替えた:少し葉に触れたくらいで倒れてしまうくらい大きく育ってしまったので植え替え。部屋における緑の存在感が膨らむのが嬉しい。
  • ぞうを増やした:ディック・ブルーナのぬいぐるみが増えた。正面からの表情が細長いのが好き。
  • 机を買った:普段のPCデスクはコードがごちゃごちゃしていてとても集中できないので、いい具合の折りたたみ式デスクを買った。静かな机が部屋にあるというのは豊かなこと。

binary

 配信に3人以上が出てくるととたんに興味をなくしてしまう。これはポリアモリーについても同じことで、とにかく3人以上の関係性や会話に興味が持てないらしい。自分がそもそも3人以上で会話するのがとても苦手だし、現実でも3人以上のやり取りが始まると全部どうでもよくなってしまうし、加えて言えばクラブに行っても誰とも話さずフロアでDJと一対一の気分で踊っているので、もうそういう性質なのだと思う。そういうわけで配信者のライブを見ていると必ず常に集中が途切れるパートがある。3以上の数が数えられる人はすごい。私は一対一でやっていく。

ライブ性

 前述の話とは全然繋がっていないが、音楽のライブというものに関心が持てない。特に録音物がすでにあるものをそのままやるようなライブについては。
 私はクラブカルチャーの人間なので、録音物の方が音響的にもパフォーマンス的にも全然優れていると思うし、実際録音物でできていることがライブでできていないと興ざめする。NOT WONKはこのパターンで、アルバムと楽曲の魅力の大半を担っていたミックスの良さが全て失われ、一時間のパフォーマンスの間ずっとしらけていた。
 当然配信者のライブも同じことで、ずっと「バックトラックの質が悪いな……」とか「音響悪いな……」とか「歌みた聴いてた方が満足度高いな……」とか思う。
 ライブが観たいバンドというとやはり"ライブバンド"と呼ばれるようなやつになる。Ogre You Assholeとか。アルバムに入れるには長すぎるとか冗長すぎるとか、そういう部分にこそ真価が出る音楽というものはある。その端的な例が12インチミックスなりExtended Mixなりダブバージョンなりというものなのだと思う。

ドライブ感

「配信者が不幸な境遇から抜け出したとたんに興味をなくす」という罪悪感を感じている人をよく見る。個人的には一向に構わないと思う。
 「他者の不幸しか面白がれない」という言葉が並んでいることが多いが、それならそれでいいと思う。そういう自分に嫌気が差せばそういう配信は早晩見なくなるし、それをやめたいのならチャンネル登録を切ってSNSのフォローを切るだろう。
 程度問題ではあるが、人間は倫理の器としてはかなり小さい。人間が人間である以上、それぞれがそれぞれのレベルにおいてどれかの倫理に反してしまうことは仕方がない。

 追記:これは別に反倫理的行いを積極的に肯定するものではない。それぞれが他者への加害に充分に配慮した上で、自分の信条と欲望に向き合い、それらが"理想的な自分"に照らして望ましからぬ形をしていることを受け入れられるのがベストという話である。

7/2

できたこと

  • 買い物
  • 料理

雑感

 お風呂上りで、今日は早く寝たいので汗が引くまでの間だけ。

頓挫

 2022年上半期ベストアルバムを考えようとしたのだが、2月までに印象に残ったアルバムを聴き返したところ、今の趣味にまるで合わずとても聴けなかったため中止の運びとなった。感性の変化が早いのは良いことだが、こんなでは音楽を手元に残す意義が失われてしまう……。

今日

 呼んだ。

 完成品。トマトが多すぎたせいで水っぽくなってしまった以外は概ね成功。バゲットも買ってきてオリーブオイルに浸し、チーズを乗せて食べた。トマトとチーズをかぶせて油に漬けたパンはもはやピザなのでは……?と思い、事実ピザなのでちゃんと美味しかった。友達がチーズ好きということが分かったので次回はチーズのグレードを上げてトライしたい。

 それから友達の希望でシーシャを吸いに行った。はじめは私が誘ったのだが、何も言わなくてもシーシャをリクエストしてくるようになってとても嬉しい。

 シーシャ屋は常に他のシーシャ屋の女性店員(拠点は歌舞伎町周辺)とWANIMAっぽい見た目の物静かな人がいるし、女性店員は必ずキャバかホストの話で盛り上がっている。毎度ながら変な空間だなと思う。ミントを入れたところ明らかに喉への刺激があり、吸い方が覚束なかったのもあって、吸い始めてから30分くらいはずっとむせていた。友達は横で涼しい顔で吸っていて、やや敗北感があった。
 店員と雑談していたところ、北海道のシーシャ店舗密度は日本一だし、東京にはマクドナルドの店舗数以上のシーシャ屋があるということを知った。このニッチがレッドオーシャンになるというのは面白いなと思った。

 それから『ベイビー・ブローカー』を観た。疑似家族もの。「産まなければ」「生まれなければ」という嘆きはインターネットでよく見るものの、げんに生まれてしまっていること、今ここにいることはどう手を尽くしても覆し得ない以上、先に進むためには一旦それを受け止めるしかなく、そういう肯定を血の繋がり以外のところで、さらに言えば無根拠的に持てたらいいよね……という最近の気分と合致して満足度が高かった。

 汗が引いたので今日はここまで。

6/24

できたこと

  • 残業
  • 早起き

雑感

メタ

 ダ・ヴィンチ・恐山の頻出ツイート100選が燃えて取り下げられた。本人には全く悪気がなかったというが、それはどういうことなんだろう……と考えていて、岡崎体育を思い出した。

music.youtube.com

 岡崎体育は既存の音楽・MVのフォーマット自体をネタにした音楽で知られるミュージシャンで、本人としてはやはり面白いと思っているのだと思う。
 個人的には(昔は面白がっていたにせよ)「うざ……」と感じる。「感情のピクセル」なんかはリリース当初に聴いてシンプルに嫌だなと思った。
 で、恐山が「面白いと思って」あのnoteを公開したのなら全然面白くない、という結論が出た。あれは要するに既存のネタを並べ直しただけの、他人のユーモアと感受性へのただ乗りだし、そもそも既存のネタを並べるというネタ自体が岡崎体育なりの先人によってすでに耕し尽くされている。もっと悪意的に、Twitterユーザーの単調さを揶揄する目的で供されたのであれば食らうものもあったかもしれないが、あくまで「おもしろ」の一環として供されたのであれば、そこには新規性も批評性も見出すことはできないし、その(自分のものも含まれている)べたべたの手垢を見て単に嫌な思いをするに留まる。
 バイデンが井戸に毒を投げ込んだとツイートして燃えた人のことが懐かしい。既出のハイコンテクストユーモアで滑ると予後が悪い。

 余談:頻出ツイート100選に対して「禁止カードだろこれ」と言及している人がいて、"頻出ツイート"だと思った。

52ヘルツ100デシベルのクジラ

 日記を読んでいるときに「同じ話題に皆が反応し、それを繰り返しているうちに思想が先鋭化するのは怖い」といったようなことが書いてあって、それは本当にその通りだなと思った。
 個人的に嫌なことを加えると、言及先が揃うことに加えて、感想文の出力パターンが似通い始めたり、同じことを別の言葉で言い換えるゲームが始まったりすること。フォローし合うくらいには感性が近いのだからある程度自然なのだとしても、みんなある程度はてんでばらばらの趣味嗜好を持っていて、日頃は全然違うことに言及していて欲しいと思う。Twitterコミュニティにはそういう緩さを求めている。
 自分の場合で言うと、私もさすがに音楽の好みが相互の人と全然重なっていないことは重々承知しているが、それはそれとして聴けばみんな好きになるだろうという確信があるから、踊れるトラックやメジャーっぽい音そっちのけで日々ノイズなりドローンなりのエクスペリメンタル音源ツイートを延々連ねている。私がやっていることは当然気ままなツイートであるが、内心を探れば威嚇でありつつ誘いでもあるだろう。
 通じない話を、通じないとしても話すし、何なら騒がしくする。要するにどこにも属さず、でもなんとなくは属していたい。今はそういう感じでいる。

語録

松田:笑 そのさ、どこまで本気で言ってるかの焦点をぼかすような喋り方やめようよ。病状が進行するよ。

room.commmon.jp

 何でもかんでもある種の"構文"に入れ込まないと発語できない類の人がいる。別に例のアレとかの話に限らず、話題の漫画の最新話が更新されたあとの数時間でバズってる感想ツイートとか、なんでも。いわゆるジャーゴンというやつだろうか。
 とにかく、意見なり感想なり感情なりがあるという時に外部の硬直した構文を引っ張ってくるというのが気に入らない。ただフラットに書けばいいものをと思う。何様のつもりだと言われても仕方がないが、嫌なものは嫌なのだから何様だろうがやはり言いたい。普通に書いて普通に話してそんな口調になると言うならもう文句も言わないけれど、変な構文の震源地にゃるらですら、スペースを聞いている限りは普通に喋るというのは覚えておいてほしい。

『犬王』

 観たのにすっかり忘れていた。なぜかというと音楽の思想がまるきり合わないから。
 曲がりなりにも能楽をやるのであれば音楽も能楽のエッセンスを持ちつつ、外部の文脈の力を借りてポップに聴かせるというのが筋だろうと思うのだが、この映画ではまるきり60年代ブルースロックやQUEENというEstablishedな音楽にその力を依存していて、この映画でなくてもこの音楽は"鳴る"だろう、と白けてしまった。それがずっとこそばゆくて話の筋を追うどころではなく、作中にある無音パートはこそばゆさがやっと消えたという安堵に費やされていて、意図されていた緊張が全く伝わってこなかった。コンセプトも声優も脚本も良いのに音楽のコンセプトがまるで受け付けない。この湯浅政明という人とは趣味が合わないだろうなと思った。

周央サンゴ3D

 とても良かった。お披露目配信のテンプレート(スクショタイム、ゲストを呼んだ企画、スパチャで画面上に増えるオブジェクト……)をなぞりつつ、全てが一つのミュージカルの流れに自然な形で組み込まれていて、この人の企画力の高さを感じた。
 歌についても、マツケンサンバⅡはダンサーとコーラス含めてすべて自分素材でやるという奇行でこそあれ、MVの再現度の高さと松平健の歌唱の完璧なトレースには奇行を奇行に終わらせない強度がある。初音ミクの暴走を生で歌うどころか原曲にないシャウトを繰り出すエモとユーモア、独自性とパロディ、おふざけと本気をシームレスに自在に行き来する様はまさに傑物で、見終えた後は本当にすごい人だなと思った。

聴いたもの

harmoe - It's A Small World

music.youtube.com

 岩田陽葵と小泉萌香による声優ユニット𝒉𝒂𝒓𝕞𝕠𝕖のファーストアルバム。全体をエレクトロニックサウンドで固めたポップソングが並ぶのだが、曲のクオリティより先に「大場ななさんと露崎まひるさんがデュエットしている……」という感情が先に立つ。楽曲を提供しているのはyuigot、KOTONOHOUSE、Tomgggなどマルチネ周辺の面々なのだが、このアルバムの本命は田中秀和が提供した「ククタナ」である。

 トライバルなパーカッションとマリンバの刻みにアラビア音階がほのかに香るメロディが乗り、ビートはダンスホール、中間にあるドロップはUKベース……と複数のコンテクストをポップとしてまとめ上げているだけでも意味が分からないが、その上でharmoeの二人の甘さを帯びた特徴的な歌声が際立つように、あくまで主役が二人になるようにサウンドの全体を控えめかつ西洋的に洗練させるという離れ業をやってのけている。2022年の収穫の一つ。

Various Artists - Now Thing 2

「ククタナ」を聴いてダンスホールが聴きたくなったのでコンピレーションを手に取った。ダンスホールには明るくないので名前も文脈も全然分からないのだが、今聴いても明らかに異形と言えたりインダストリアルやポストパンクとも接続したような聴き心地が異様な曲が3割以上あって、この柔軟性が現代のMixpakやEquiknoxx、Livity Soundなどのサウンドに繋がっているのだなと思った。

Various Artists - Denham Audio & Friends Vol. 2

 UKG・ブレイクスの名所Cheeky Music Groupの新譜。Denham Audioなる人物が周辺プロデューサー数人と組んで作ったトラック群。テーマはレイヴらしく、一曲目からハッピーハードコア、二曲目はブレイクスに強烈なエレクトロ、三曲目はアシッド……とあからさまにこちらに暴れることを要求してくる激しいトラックが並ぶ。最高。

Chrisman - Makila

 アフリカのエクスペリメンタルレーベルとして知名度を上げるウガンダのNyege Nyege Tapes傘下、東アフリカとコンゴのクラブミュージックを探求するレーベルHakuna Kulalaの新譜。Gqomのような硬くダークな質感を持ちつつ、それだけに留まらずシンゲリ(タンザニアの高速ダンスミュージック)の速度やクドゥロ(アンゴラのスカスカなダンスミュージック)、ベースミュージックやトラップ・グライムのサウンドも飲み込んで完全に独自のアフリカンエレクトロニックサウンドを鳴らす傑作。アフリカの現在の音が鳴っている。

music.youtube.com

 Stevie Wonder - Superstitionネタのミニマルテックハウス。ボーカルのカットアップに加え、原曲のキメのフレーズは丁寧にコードを追って再現しているところが良い。

music.youtube.com

 Queen - Another One Bits The Dustのベースラインをサンプルしてラップのサンプルを乗せたハウス。他に言うことはなく、その簡潔さに快楽性が宿る。

 Henrik SchwarzとFreestyle Man aka Sasseなるドイツのプロデューサーが組んでMule Musiqから出したシングル。ジャジーながら軽快にバウンスし、適度なエモーショナルさも忘れない、Henrik Schwarzの強みが全部出たようなトラック。これくらいで踊るのが一番気持ちいい。

 最近はいろいろ聴いていろいろ買っているのだが、ブログに書くのが全然追いつかない。日記を継続して書くということができていないので、当たり前といえば当たり前なのだけれど……。

読んだもの

comic-ogyaaa.com

6/20


できたこと

  • 早起き
  • 洗濯

雑感

月報

 ついに20日間一度も日記を更新しなかった。理由は明らかに新譜を聴くことに没頭していたから。書く以外で実のあることに没頭できていたのならそれもよいのではないかと思う。ざっくりと良かったことは以下。

  • トップガン・マーヴェリック』を見た。パワフルでマッシブな傑作
  • シーシャを吸いに行った。友達がドハマりして遊びに誘う口実が増えた
  • 高級布団を買った。保温性が高くてすごいが暑い
  • かわいいパジャマを買った。かわいい
  • 芸術の森で開催されたフェス「しゃけ音楽会」に行った。青葉市子とどんぐりずとサニーデイ・サービスは最高
  • ブルーナが増えた。積むと崩れる

  • 相互の人が出しているアクリルキーホルダーを買った。絶対に触れられないものの似姿が平板に宿っているのは具体物と象徴性が一致していて好ましい
  • 机を買った。勉強をするぞ

"実質"の実質性

 以下性に絡んだ話をする。別に私の経験談でも官能小説でもないにせよ。

 手を繋ぐことは実質性行為である、という言説をたまに見かけるのだが、その"実質"はどの程度実質なのだろうとふと気になった。個人的にはそれは言い過ぎではないかと思うのだが、性行為に際して最もクリティカルなインターフェースは手であるという人もいるだろうし、経験則あるいは演繹的な結論に基づいて手を繋ぐことを性的に感じているというのも可能性として充分あるとも思う。
 理屈自体は分からなくはない。手は人間の外界との交渉を文字通り一手に引き受けるインターフェースである。以下に清岡卓行『手の変幻』からの一節を引用する。

腕というもの、もっときりつめて言えば、手というものの、人間存在における象徴的な意味について、注目しておきたいのである。それが最も深く、最も根源的に暗示しているものはなんだろうか? ここには、実態と象徴のある程度の合致がもちろんあるわけだが、それは、世界との、他人との、あるいは自己との、千変万化する交渉の手段である。いいかえるなら、そうした関係を媒介するもの、あるいは、その原則的な方式そのものである。(清岡卓行『手の変幻』より「失われた両腕 ミロのヴィーナス」(講談社文芸文庫))

 手は人間が他者に触れ、コミュニケーションを取る手段であり、同時にコミュニケーションの象徴でもある。あらゆる他者への接触はコミュニケーションを生じる。それが意図的なものであればなおさら。
 ここで相手を人物に限定したとき、もちろん触れる箇所によって意味合いは様々に変わるのだが、前述の手の実態と象徴により、手に触れることは他の箇所とは異なる特別な意味合いを帯びる。まずは実態として、自分の手が相手に交渉を仕掛けるインターフェースであるのと同様に、相手の手も自分に働きかけるインターフェースであるから。手を繋ぎ、その手の形、インターフェースの形を手指の鋭敏な触覚によってつぶさにあらためることは、自分に触れてくるものの形を確かめること、つまり自分に触れてくるものの大きさ、形、肌触り、温度などに思いを馳せることである。コミュニケーションの象徴としても話は同じで、手を繋ぐ時、自分が相手の手に触れているということは、同時に相手の意思によって自分が触れられているということでもある。ここには触れにいく主体性と、触れられる受動性が同時に存在する。
 そして当然、手を繋いだだけで終わりではなく、そこから生じたコミュニケーションが継続する。触れたこと、触れられたことによる反応があり、その反応に対して新しい反応やアプローチが返る。それを性行為に直結するのは、理屈上不自然なところはない。

 それはそれとして、やはり個人的には性行為が手という局所的なフェチズムだけで完結する営為ではないと思う。人間は別に手だけの生き物ではなく、数十キロもある肉体の重みであるとか、汗ばんだ肌の幅広いふれあいであるとかいったような、身体情報と全身のセンサーをくまなく使う、その全体性を伴ったコミュニケーションこそが性行為の性行為たる所以であろうと思う。…………とはいえ、私自身には性交渉の経験がないので、全て想像に過ぎないと言ってしまえばそれ以上のことはない。ただ私がそう思っているだけである。だから興味がある。手を繋ぐことが本当に性行為のジェネリックたり得るのかどうかについて。

父の日

 日曜日は父の日だったので一緒にご飯を食べに行った。当日になって母親も来るとメッセージが飛んできた時は正直げんなりしたものの、まあ三人でご飯を食べ、ついでにショッピングモールに買い物に出かけ、幾ばくかの金銭を包んで心遣いに渡した。
 結局のところ父親が好きなのだと思う。好きではない部分も不愉快なエピソードも少なからずあるのだが、トータルでは好きということになっている。だから19日はまだ賞与が出ていなくて、心遣いを包むために貯金を崩す必要があり、その日は精神的にはかなりひもじかったのだが、それでも渡しておきたいと思ったし、渡したことには満足感がある。それは自分の中のパターナリスティックなところとも繋がっている気がする。

婚姻

www.asahi.com

国側は、憲法24条が「両性の合意のみ」で婚姻が成立すると定めている趣旨について「男女を表すことは明らかだ」と反論。婚姻制度の目的は「一人の男性と一人の女性が子どもを産み、育てながら共同生活を送る関係に法的保護を与えること」であり、同性婚は該当しないとした。

 また、憲法14条と立法不作為については「憲法同性婚を想定していない時点で問題は生じない」とし、原告側の請求を棄却するよう求めていた。

 国はそう言うだろうなと思った。裁判所の判決文は以下。

www.huffingtonpost.jp

 原告の主張が「憲法n条に反している」というものであった以上、裁判所も憲法の成立過程とヘテロセクシャルな時代背景を読み解いた上で、あくまで憲法の歴史的解釈というヘテロセクシャルが支配的なゲームの上で判断することは自然の成り行きという気がした。裁判所を機械視しすぎしているだろうか。
 正直なところシンプルに頭が悪いのでタイムラインで見かける言及にも感情にもあまりついていけていない。判決文を読む限り代替制度の用意を含めた立法府での議論や、世論への浸透を待とうみたいなことが書いてあって、同性婚について裁判所が明確に否定したとは読めないので、いずれは同性婚も通るだろうと思うのだけれど……しかしそれは自分が"いずれ"を死ぬまで待っても困らない(婚姻制度じたいの)非当事者だから言えることだろう。さておき、裁判でダメなら選挙に行って立法府同性婚の議論を推進する議員を議会に送り込もうとしても、そもそも性的"少数"なので選挙戦略的には後回しになる、よって議員数は必然的に減るし実現の見込みも薄くなる……というような負の循環が思いつき、それで裁判なのか、と納得した。
 あと一押しなのではないかという気もする。インターネット上の言及にもある通り、DINKSの世帯数は増えているし、そうでなくても様々な理由で子どもを持っていない家庭もある。裁判一個ごとに突破口は増えているように思われる。
 議論を見た上で自分でも少し考えたのだが、自分にとって婚姻が何を意味するのか全然分かっていないことに思い至った。制度的優遇が存在するというのは分かるが、それ以上の情緒的意味は自分以外の誰かがこう言っている、くらいにしか思われないし、その自分以外にしても自分の血族はほぼ全員が婚姻によって不幸に陥っている。婚姻というものは情緒・宗教(儀礼)・社会・行政という四つに絡んでいて、論じる上ではどれ一つ欠いてもならないのだが、情緒の面について全く共感を欠いていて議論に参加する意欲が出ない。私はおそらく根本的には反婚姻の立場である。同性婚については知り合いが当事者であるし、やはり不平等だろうという情緒的な考えがあるから賛同しているが、結局のところ連帯というほどにはならないだろうなと思った。

楽しみなアナウンス

良いツイート

聴いたもの

Automatisme - Statique

 カナダのミュージシャンWilliam JourdainがForce Inc. / Mille Plateauxからリリースした作品。トラックはアンビエントダブテクノの脈動をアトランダムに揺らした「Ultra-Scape」と高速クリック&カッツ(グリッチ)の「Ultra-Rate」の二系統があり、それぞれ不規則なナンバリングを持っている。前者は現行のダブ・アンビエントの融合、後者はNyege Nyege Tapesから出ているような高速シンゲリを2000年代からあるグリッチエレクトロニカサウンドで解釈したような、歴史性と新規性を折衷したサウンドでとてもかっこいい。絶対に誰かが言及すると思っていたのだがどこからも出なかった。時局を読むセンスがない。

Crackazat - Evergreen

 スウェーデンのマルチミュージシャンかつハウスプロデューサーのCrackazatによるフルレングス。Crackazatらしいジャジーな浮遊感のあるコード進行のハウスが並び、ずっと踊り続けることができる。
 ハイライトは"Everybody Talks About It"で、フックで登場するホーンセクションの突き抜けたサウンドが凄まじく気持ちいい。ハウスミュージックの気持ち良さはこれを聴けばわかる。この曲はアルバムリリース後にリミックスEPが発表されたのでそちらも楽しみ。

読んだもの

 今日は同性婚の議論を読んでいた。

5/31

できたこと

  • 洗濯
  • 残業

雑感

会議は踊らず

 今日は何も音楽を聴いた覚えがないな……と思ったが、考えてみれば朝から夕方までノンストップで会議が入っていてそんな時間などなかったのだった。どうも面白くないので小さめの音量でドローンでも流しておけばいいだろうか。

メメント・モリ

 22時までの残業が常態化したことに加え、深夜作業がちょくちょく入ってきたことなどもあって生活が崩れ始めている。残業が生じるのは要するに私がどんくさいからだろうし、これ以上負荷が増えたらどこかで無理になるだろうとの見立てがつき、うっすらとした死の気配を背中に感じつつ日々を過ごしている。
 別に人並み以上に働いているということではなくて、そもそも実務処理のための基礎的な能力が低いのだろうなと思う。発達のせいなのか集中力が持続しないとか、思考能力や発想力が足りていないとか。そういうINTの足りなさを全てEDUでごまかすような生き方をしてきたが、それもあと何年続けられるだろうか……。あまり続かない気はしていて、夜中に起きているとどこかで自分の許容量を超えた何かが降ってきて死の方向になだれていくことを考えてしまう。
 人生は物語ではないとは自分がしばらく前に考えていたことだが、物語ではないと緩やかに思い続けるためには水面から顔を出し続けられるくらいに足を動かし続けることも重要だなと思う。「人生は物語ではない」とは「何もしなくても生きていられる」という意味ではない。
 頑張りましょう。最近はこの一言に尽きる。

良いツイート

どむぞうくん!!!!!!

聴いたもの

A Light for Attracting Attention - The Smile

 トム・ヨークの新バンドThe Smileのファーストアルバム。トム・ヨークらしいメランコリックなメロディはいつものRadioheadだが、そのアレンジに豪勢で劇的なストリングスを加えたり、Radioheadの世界観ではぎょっとするようなビビッドな音色のシンセを使ったりと、革新性は一旦措いて、とにかく気楽にやりたいことをやっているというような印象を受けた。たぶん今は70~80年代、ニューウェーブ/ポストパンクがやりたいのだろう。ダブリミックスも出していることだし。

読んだもの

ルシア・ベルリン『すべての月、すべての年』をちょっとずつ読み進めている。